アフリカまとめ

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国際

債務削減(2005年)の評価:HIPCイニシアティブ

DSC036072005年、G7諸国により重債務貧困国(HIPC)イニシアティブが合意され、重債務貧困国に対する100%の債務削減が決定されました。レオ[Leo (2009)]はその4年後にこの債務削減の効果を評価し、3つの問題点を指摘しています。


I. 債務削減後も変わらない債務総量                
HIPCイニシアティブによって重債務貧困国の債務が帳消しとなることに決まったが、HIPCイニシアティブ合意後すぐの2年間に世銀・IMF・アフリカ開発銀行は同じ国々に対して78億ドルの追加融資を行っており、この量は合意直前の2年間に融資された81億ドルとほぼ同じである。これはアフリカ援助倍増を目指すとした2005年サミットをはじめとする2000年代のアフリカ援助増加により援助の総量が拡大してきたことによるものであるが、結果として融資の流入量は重債務貧困国全体としてみれば変わらなかった。各国別で見た場合モザンビークは順調に持続可能な水準に債務をコントロールしているが、多くの重債務貧困国は近い将来に債務比率が悪化すると予測されてる(エチオピア・マラウィ・ニカラグア・シエラレオネ等)。

II. 甘すぎる経済見通し                         
 i) GDP成長
IMFや世銀による途上国の成長率予測は融資拡大を正当化する理由として使われてきたが、IMFのこれまでの予測と実際の数値を比較すると平均で年1.14%分多く見積もっていることがわかる。また、紛争国を除いた値においても平均0.84%分楽観的に見積もっていた。短期で見ればこの影響はそこまで大きくないが、国際機関による融資は数十年単位の返済期間で実行されるため短期の予測の乖離が大きな影響を及ぼすこととなる。
  ii) 輸出成長
重債務貧困国の輸出は価格が変動しやすい単一の一次産品に依存しているにもかかわらず、IMF・世銀は価格変動の影響に関し楽観的な予測を立ててきた。世銀自身の調査によれば、重債務貧困国の輸出成長率予測は1980年から2000年にかけて6倍、1990年から2000年にかけては2倍大きく見積もっており、改善は見られるものの未だに甘い予測となっている。

III. 重債務貧困国ガバナンスの脆弱性の継続             
世銀・IMFは「国別政策・制度評価(CPIA)」に基づいて各国のガバナンスを「強い・中程度・弱い」に分類し、「強い」場合はGDP対比200%、「中程度」の場合は150%、「弱い」場合は100%を債務持続性の基準と設定する。そしてその基準から10%超過した国を赤信号、±10%以内を国を黄信号、10%以下の国を青信号と分類し融資実行の際の基準として運用している。しかし、多くの国がCPIA「強い・中程度・弱い」の間を頻繁に移動しており、40~50年単位で貸し付ける大型の融資を持続的に管理することは難しい。重債務貧困国のCPIAの数値自体は改善してきているが、債務持続性の信号評価を十分に改善するには至っていない。さらに、約70%の被債務国のCPIAが「強い・中程度・弱い」の境界上に位置していることも研究により示されており、相当数の国が不適当な分類をされている可能性が高い。

IV. 政策提言                                
①より控えめな成長予測を人事評価などにより奨励
②将来予測でなく、現在の債務状況により融資を決定する
③債務持続性指標に余裕を持たせる(「強い」国でもGDP対比150%まで等)
④(楽観的な予測や、ガバナンスの脆弱性が改善しないならば)債務持続性指標の枠組みを放棄し、より単純で伸縮性のある基準を設ける。
 

<参考>
Leo, Benjamin. (2009) Will World Bank and IMF Lending Lead to HIVC IV? Debt Deja-VuAll Over Again. Washington D.C., Center for Global Development, working paper 193.

日本アフリカ関係①:日本の援助外交

graph2-1日本とアフリカの国際関係について、佐藤(2007)で外交的側面について議論されています。
佐藤(2007)の議論はShcreader(1999)への批判を中心に展開されていますが、Schreader(1999)の原文は手に入らなかったため佐藤(2007)のみを参考としています。


I. シュレーダー(Schreader)の理解                
日本のアフリカ援助は経済的利益追求を目的とした新重商主義的なものである。日本の援助は日本の産業にとって死活的な資源国か日本の輸出進出にとっての地域的拠点に限られる。

II. 佐藤の主張                             
・日本の援助はアフリカのほぼすべての国々に対して行われており、量的な比較でも資源国と非資源国で決定的な違いがあるわけではない。
例:2000年の援助額は資源国である南アフリカが1980万ドル、ザンビアが3190万ドル。資源の豊富でない国、マラウイが3850万ドル、ブルキナファソが2130万ドル、タンザニアが2億1710万ドル、ジンバブエが6240万ドル。

・日本のアフリカ外交は第三者や国際社会の出来事・要請に対する「反応」として形成されてきたのであり、アフリカ諸国との二者関係としてではなく、第三国や国際社会の状況の中に位置付けられなければならない。
例:・アジア‐日本‐アフリカ(日本のアフリカ援助初期の「日本のアジア援助による成功経験をアフリカへ」)
  ・中東‐日本‐アフリカ(オイルショックを受けた石油供給元の分散戦略)
  ・国際社会‐日本‐アフリカ(国連安保理常任理事国入りに向けた票の確保)
  ・欧米諸国‐日本‐アフリカ(欧米の援助疲れ・日本の貿易黒字への批判を受けたアフリカ重視)

・日本とアフリカの三者関係性は不正常なものではないが、今後は企業や市民社会を含めた複合的二者関係を深化させ、アフリカ諸国そのものに対する反応性を高めていかなければならない。


<参考>
佐藤誠(2007)「日本のアフリカ外交ー歴史にみるその特質」 武田進一編『成長するアフリカ―日本と中国の視点(会議報告)』
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Kidou/pdf/2007_03_03_3_sato_j.pdf

*円グラフは外務省サイトより