アフリカまとめ

アフリカニュース、アフリカ経済、アフリカ政治、アフリカ文化、海外ビジネス、開発経済、国際政治などについて記事を書いています。不完全な記事も多く個人的スクラップのようなものが多いですが何かの役に立てば幸いです。

政治

中国の対アフリカ投資の実際

中国によるアフリカ投資(海外直接投資〔FDI〕)は世界から注目を集めていますが、元世銀研究員の中国人の申氏 [Shen (2015)] はその実際の動態について調査を行いました。


I. 中国本国の統計に基づく知見                                
【投資案件数の推移】
中国民間企業のアフリカへの投資は急拡大しており、投資案件数は2005年の52件から2013年には1217件まで増えた。中国企業の対アフリカ投資案件の53%は民間によるものである。
【産業分野別傾向】
民間企業は製造業・サービス業に投資する傾向にあり、国有企業は建設業・鉱業に多く投資してきた。
【中国国内の地域傾向】
地域別でみると、製造業をリードする本国沿岸地域の企業による対アフリカ投資が最も大きい割合を占める。
【アフリカ大陸内での地域傾向】
中国企業の対アフリカ投資はサブサハラアフリカに広く行き渡っているが、ナイジェリア・南アフリカザンビア・エチオピア・ガーナの上位5か国で全体の案件数の40%を占める。
【中国の統計データの評価】
中国の専門家は統計当局の役人も含め、中国の投資統計データは民間による中小規模の投資の数を把握できていないと考えている。

II. 投資受け入れ国の統計に基づく知見                      
【投資案件数の推移】
被投資国(ナイジェリア・ザンビア・エチオピア・ガーナ・リベリア・ルワンダ)の統計データに基づいた場合、中国企業による投資案件数は中国側のデータに比べて数倍の案件数がある。
【産業分野別傾向】
中国企業による投資案件は主に労働集約的な製造業に集中(44%)しており、その後に小売・流通等のサービス業や鉱業が続いている。
【各国内における中国資本の位置】
エチオピアやザンビアなど中国からの投資が対内海外投資全体で大きな割合を占めるものもあれば、リベリアやルワンダやガーナでは低い水準に留まっている場合もある。
【進出中国企業の規模と競合相手】
アフリカに進出する中国企業は小規模な中国資本の企業であることが多く、主に同様の南アフリカやインドといった新興国から進出した小規模な企業と競争する。
【中国資本の国内開発への寄与】
2012年のアンケート調査によれば、中国からの投資はその雇用創出によって総じて肯定的にとらえられている。しかし、国内の産業化の観点からは否定的な意見も多数あった。


III. 企業への聞き取り調査に基づく知見                         
【投資動機】
製造業企業にとっての投資動機は①アフリカの国内市場とその先に潜在的に広がる輸出市場へのアクセス、②特に低賃金労働力による生産コストの低さ③原材料へのアクセスである。
【投資リスク】
インフラ整備が不十分であったり治安・政情の不安定な国では操業コストが高い。
【産業・投資政策への反応】
輸入代替工業化政策はある程度は成功を収めたといえる。輸入規制に対応して本国からアフリカに工場を移した企業もあった。
また、被投資国の投資環境の違いは中国企業の投資国選択に影響を与えた。
【本国の政策への反応】
本国と被投資国の両政府による投資促進政策はある程度役に立っていたが、現地の既存ビジネスを通した口コミ的な生の情報が最も重要な要素であった。
【その他】
・民間企業群によって自発的に形成された工業団地がプラットホームの役割を果たし、企業のコスト削減に役立っている。
・多くの民間企業はアフリカでの事業を「2回目の事業立ち上げ(二次創作)」として捉え、20年前に中国国内で行ったのと同じ、断固として勤勉に倹約する手法で事業を行っている。
・アフリカの中国企業は概して利益という点でこれまでの事業経過に満足している。

IV. 結論                                                                       
【新植民地論への反応】
2012年8月当時の米国国務長官だったヒラリー・クリントン氏は中国によるアフリカへの投資を「新植民地主義」であるとして批判したが、これは正しくない。
被投資国は雇用創出等の恩恵を得ており当局関係者もこれを好意的にとらえている。ただし技術移転や現地企業との協働等の長期的産業育成効果を期待できる要素は依然として弱いことも認められ、投資受け入れ国による政策努力により双方良し(Win-Win)の関係が築かれることが望まれる。
【中国企業進出の理論付けと政策提案】
中国企業の進出は、赤松氏が提唱した雁行形態論に従って中国企業が次の発展段階に移行していることを示すものであり、アフリカ諸国は低賃金労働力等の後発国の優位を十分に生かし、中国自身が20年前に享受したような発展を達成することができる。同時に中国企業はWells氏の言う第三世界多国籍企業の優位をもって有利に進出することができている。しかし、中国企業は依然としてアフリカ諸国に対してインフラの不備や不安定な政治等の不安を抱いており受け入れ国政府はこれらを払しょくする必要がある。また、口コミによる投資誘引効果が大きいことも今回の研究でわかったので、受け入れ国政府は既存の進出企業に対する行き届いた対応をすることで投資を引き付けることが出来るだろう。


<参考>
Shen, Xiaofang. “Private Chinese Investment in Africa: Myths and Realities.” Development Policy Review 33, no. 1 (2015): 83–106.

債務削減(2005年)の評価:HIPCイニシアティブ

DSC036072005年、G7諸国により重債務貧困国(HIPC)イニシアティブが合意され、重債務貧困国に対する100%の債務削減が決定されました。レオ[Leo (2009)]はその4年後にこの債務削減の効果を評価し、3つの問題点を指摘しています。


I. 債務削減後も変わらない債務総量                
HIPCイニシアティブによって重債務貧困国の債務が帳消しとなることに決まったが、HIPCイニシアティブ合意後すぐの2年間に世銀・IMF・アフリカ開発銀行は同じ国々に対して78億ドルの追加融資を行っており、この量は合意直前の2年間に融資された81億ドルとほぼ同じである。これはアフリカ援助倍増を目指すとした2005年サミットをはじめとする2000年代のアフリカ援助増加により援助の総量が拡大してきたことによるものであるが、結果として融資の流入量は重債務貧困国全体としてみれば変わらなかった。各国別で見た場合モザンビークは順調に持続可能な水準に債務をコントロールしているが、多くの重債務貧困国は近い将来に債務比率が悪化すると予測されてる(エチオピア・マラウィ・ニカラグア・シエラレオネ等)。

II. 甘すぎる経済見通し                         
 i) GDP成長
IMFや世銀による途上国の成長率予測は融資拡大を正当化する理由として使われてきたが、IMFのこれまでの予測と実際の数値を比較すると平均で年1.14%分多く見積もっていることがわかる。また、紛争国を除いた値においても平均0.84%分楽観的に見積もっていた。短期で見ればこの影響はそこまで大きくないが、国際機関による融資は数十年単位の返済期間で実行されるため短期の予測の乖離が大きな影響を及ぼすこととなる。
  ii) 輸出成長
重債務貧困国の輸出は価格が変動しやすい単一の一次産品に依存しているにもかかわらず、IMF・世銀は価格変動の影響に関し楽観的な予測を立ててきた。世銀自身の調査によれば、重債務貧困国の輸出成長率予測は1980年から2000年にかけて6倍、1990年から2000年にかけては2倍大きく見積もっており、改善は見られるものの未だに甘い予測となっている。

III. 重債務貧困国ガバナンスの脆弱性の継続             
世銀・IMFは「国別政策・制度評価(CPIA)」に基づいて各国のガバナンスを「強い・中程度・弱い」に分類し、「強い」場合はGDP対比200%、「中程度」の場合は150%、「弱い」場合は100%を債務持続性の基準と設定する。そしてその基準から10%超過した国を赤信号、±10%以内を国を黄信号、10%以下の国を青信号と分類し融資実行の際の基準として運用している。しかし、多くの国がCPIA「強い・中程度・弱い」の間を頻繁に移動しており、40~50年単位で貸し付ける大型の融資を持続的に管理することは難しい。重債務貧困国のCPIAの数値自体は改善してきているが、債務持続性の信号評価を十分に改善するには至っていない。さらに、約70%の被債務国のCPIAが「強い・中程度・弱い」の境界上に位置していることも研究により示されており、相当数の国が不適当な分類をされている可能性が高い。

IV. 政策提言                                
①より控えめな成長予測を人事評価などにより奨励
②将来予測でなく、現在の債務状況により融資を決定する
③債務持続性指標に余裕を持たせる(「強い」国でもGDP対比150%まで等)
④(楽観的な予測や、ガバナンスの脆弱性が改善しないならば)債務持続性指標の枠組みを放棄し、より単純で伸縮性のある基準を設ける。
 

<参考>
Leo, Benjamin. (2009) Will World Bank and IMF Lending Lead to HIVC IV? Debt Deja-VuAll Over Again. Washington D.C., Center for Global Development, working paper 193.

日本アフリカ関係①:日本の援助外交

graph2-1日本とアフリカの国際関係について、佐藤(2007)で外交的側面について議論されています。
佐藤(2007)の議論はShcreader(1999)への批判を中心に展開されていますが、Schreader(1999)の原文は手に入らなかったため佐藤(2007)のみを参考としています。


I. シュレーダー(Schreader)の理解                
日本のアフリカ援助は経済的利益追求を目的とした新重商主義的なものである。日本の援助は日本の産業にとって死活的な資源国か日本の輸出進出にとっての地域的拠点に限られる。

II. 佐藤の主張                             
・日本の援助はアフリカのほぼすべての国々に対して行われており、量的な比較でも資源国と非資源国で決定的な違いがあるわけではない。
例:2000年の援助額は資源国である南アフリカが1980万ドル、ザンビアが3190万ドル。資源の豊富でない国、マラウイが3850万ドル、ブルキナファソが2130万ドル、タンザニアが2億1710万ドル、ジンバブエが6240万ドル。

・日本のアフリカ外交は第三者や国際社会の出来事・要請に対する「反応」として形成されてきたのであり、アフリカ諸国との二者関係としてではなく、第三国や国際社会の状況の中に位置付けられなければならない。
例:・アジア‐日本‐アフリカ(日本のアフリカ援助初期の「日本のアジア援助による成功経験をアフリカへ」)
  ・中東‐日本‐アフリカ(オイルショックを受けた石油供給元の分散戦略)
  ・国際社会‐日本‐アフリカ(国連安保理常任理事国入りに向けた票の確保)
  ・欧米諸国‐日本‐アフリカ(欧米の援助疲れ・日本の貿易黒字への批判を受けたアフリカ重視)

・日本とアフリカの三者関係性は不正常なものではないが、今後は企業や市民社会を含めた複合的二者関係を深化させ、アフリカ諸国そのものに対する反応性を高めていかなければならない。


<参考>
佐藤誠(2007)「日本のアフリカ外交ー歴史にみるその特質」 武田進一編『成長するアフリカ―日本と中国の視点(会議報告)』
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Kidou/pdf/2007_03_03_3_sato_j.pdf

*円グラフは外務省サイトより

ボコハラム

<概要>                                    file2631272841727
ナイジェリア北部で活動するイスラム過激派組織。Boko Haram とは、現地語で「西洋式教育は罪」という意味。正式名称は、「宣教及びジハードを手にしたスンニ派イスラム教徒としてふさわしき者たち」。西洋式のあらゆる社会活動(選挙・洋服など)を否定し、ナイジェリア政府を信仰に反した人間により運営されているとする。近年,攻撃対象は,キリスト教会,警察,政府関係施設などから国連施設にまで拡大。

<背景>                                    
ナイジェリア北部では1970年代のイザラ運動、80年代のマイタシン運動などイスラム過激派の運動が繰り返されてきたが、ボコハラムは2000年代になって勢力を伸ばしてきた。これらの運動の背景としては、ナイジェリアのオイルマネーの利権を取り巻く腐敗や市場主義の導入に伴う格差の拡大が挙げられる。

<目的>                                    
①ナイジェリア政府の打倒
②ボルノ州(ボコハラム発足地)におけるイスラム法施行
③西洋式教育の否定
最終的にはイスラム国家の建設を目指しているといわれる。

<主な出来事>                                
2002年:イスラム学習グループから分派する形で設立
2009年7月:警察による取り締まりをきっかけに当局との戦闘を激化
2010~2013年:各地でテロ活動
2013年5月:ナイジェリア政府はテロリズム防止法を制定し、ボコハラムをテロリスト集団と認定
     9月:同様の過激派組織であるアンサルがケニアのナイロビのショッピングモールを襲撃
    11月:アメリカ政府もボコハラムをアンサル(同様の過激組織)とともに海外テロリスト集団に指定
2014年4月14日:ボルノ州北東部チボクの寄宿制中学校から女子学生270名を誘拐
     5月5日:代表者シャカウが女子学生らを奴隷として売買する動画を公開


<参考>
島田秀平(2014)「時事解説:ボコハラムの過激化の軌跡」『アフリカレポート』No.52 pp.51-56
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Africa/2014_16.html#1

公安調査庁「国際テロリズム要覧(Web版)」(2014年2月アクセス)
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/africa/boko_haram.html

Chosia Farouk.(2015).”Who are Nigeria's Boko Haram Isramists?” BBC News.
Available at http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-13809501 [Accessed on 27th Feb. 2015]

南アフリカの真実和解委員会(TRC)

010<目的>                                 
南アフリカのアパルトヘイト体制における暴力の加害者の処遇の決定。





<特徴>                                    
加害者の法的責任を追及せず、真実を告白することによって罪を免除し「和解」するという手法を取った。TRCは(1)事実を調査し、(2)加害者によるすべての真実の告白をもって罪を免除し、(3)被害者への補償を提案することが主な任務であった。また、国家側による罪だけでなく、ANC等の解放勢力側の罪も扱った。ただし、解放勢力側の暴力は適切であると認められる範囲である程度許容され、解放活動の範囲を超えた暴力について扱われた。

<経緯>                                    
公聴会が開かれすべてインターネット上で公開された。被害を訴えた人々の9割はアフリカ人で、その半分以上は夫や息子を失った女性であった。公聴会は農村まで出張し、証言する被害者への精神的サポートも行われた。また、殺人等の個別事件だけでなく体制としてのアパルトヘイトを明らかにするため企業・メディア等各種社会組織に特別の調査が行われた。

<結果>                                    
7000人の免罪申請を審査し、4500人の免罪を否認、125人の免罪を認定(1998年時点)。実際に殺人・誘拐等に手を下した人間ではない大統領等の体制の責任者への追及が十分に及ばず、今後の通常の司法による訴追に委ねられた。

<評価>                                    
国際社会:おおむね好評価
遺族:「和解」という手法は白人の政治力・経済力に対する妥協に過ぎない。
旧政府・ANC:個別事件についてではなく、当時一定以上の地位にいた者をまとめて免罪するべき。


<参考>
永原陽子(1999)「南アフリカの真実和解委員会」『アフリカ・レポート』No.28 URL:http://d-arch.ide.go.jp/idedp/ZAF/ZAF199903_012.pdf
BBC. (1998). TRC: The facts. URL: http://news.bbc.co.uk/1/hi/special_report/1998/10/98/truth_and_reconciliation/142369.stm

ガチャチャ裁判

<目的>                                    
ルワンダ大虐殺において虐殺に関わった住民を裁き、虐殺後のルワンダ社会における平和を構築する。

<特徴>                                    
digital-grass002ルワンダ国際戦犯法廷が虐殺を主導した幹部層を裁いたのに対し、ガチャチャ裁判は多数の一般住民を裁いた。通常の司法手続きではとても裁ききれない人数の人々が関わっていたため、現地語でガチャチャ(芝の上の裁判)と呼ばれる伝統的民事裁判方法を応用して共同体内で司法を行った。

<期間>                                    
2005年~2012年5月4日

<結果>                                    
1万2000の法廷が開かれ16万人の判事により200万人が裁かれ、そのうち約65%が有罪判決を受けた。有罪人らには懲役刑・公益労働などが課せられたが、裁判までの拘置期間も懲役期間として数えられたため裁判後すぐに釈放されたものも多くいた。

<問題点>                                   
 
・判事が法律の専門家でなく、読み書きができないこともあった。
・被告側に法律の専門家が与えられなかった。
・RPFの戦争犯罪については触れられなかった。


<参考>
BBC. (2012). Rwanda "gacaca" genocide courts finish work. URL: http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-18490348
武内進一(2008)「ルワンダのガチャチャ—その制度と農村社会にとっての意味—」 武内進一編『戦争と平和の間 —紛争勃発後のアフリカと国際社会—』

【難問】アフリカ連合(AU)の予算配分。AUは不要?

wallet-moneyAUの予算配分についてアフリカ安全保障研究所のウェブサイト記事における議論です。

▼ポイント要約▼
①AUの予算は72%が援助によるもので、アフリカ諸国によるものは28%。
    独立性に疑問。


②2013年5月サミットにおいてナイジェリア大統領オバサンジョが問題提議・解決案の提示
【2013年サミット案】
・原油産出に基づく徴収→原油生産国の反対
・各国内のホテルでの宿泊1泊あたり2米ドルの徴収→観光国の反対
・国際線フライト到着1便あたり10ドルの徴収→観光国の反対

③2015年1月サミットにおいてさらに報告

【国連アフリカ経済委員会(UNECA)による報告】
・2013年案に加え1SMSあたり0.005ドルの徴収を選択肢として提示。
・また、予算拠出配分の原則として、「アフリカ大陸全体のGDPの4%以上を占める国でAU予算の60%を均等に負担、同様に1~4%の国々で25%を負担、1%未満の国で残り15%を負担」という原則を提案。
・その上で、上の原則に基づいて算出される予算をこれまで提案されてきたSMS等への課税で賄うか単に国家財政から拠出するかは各国の判断に任せればよいと提案。

④しかし、サミットはこの報告に「留意する」としただけで、具体的行動は示さなかった。

⑤背景には、AU自体の存在意義、役割とは何かという問題がある。


<原文>
http://www.issafrica.org/iss-today/the-au-starts-to-put-its-money-closer-to-where-its-mouth-is