【コイサン語系諸族(コイサン)】
南アフリカやナミビアに分布するサン人(サン族)とコイ人(コイ族)の総称。
両民族は異なる出自を持つと考えられているが、ともにクリックと呼ばれる吸着音を特徴とする言語を使用することや、白人入植以前の長い年月の中で通婚などを通した交流が進み文化的にかなり共通点が多いことからこのように総称される。

【サン人】
かつてアフリカ大陸中央から南東部にかけて分布していたと考えれる狩猟採集民族。
はじめて白人入植者が接触した時には、ブッシュマン(蔑称)と呼んだが、「安定かつ強靭、きれい好きで繊細。若く無垢、謙虚だが遠慮がない」(Afolayan, 2004, p.25) と評したという。一般的に背は低く、肌は明るい茶色をしている。
20から80の核家族からなるバンド(狩猟採集民族の社会集団)を社会集団として生活し、洞窟等での野営と移動を繰り返し水源や狩場をめぐっていた。富・資本の集積はサン社会では進まなかったため社会構造はかなり平等で階級は存在しなかったが、男女間での役割分担は存在し、男は狩りを担当し女は子供の世話や食用植物の採集を担った。また、木や石を使って生活用品を作り、矢じりの先に毒を塗るなどしていた。
現在ではバンツー系民族に追いやられる形でナミビア周辺の半砂漠地帯にのみ住んでいるが、多くは白人農場で雇われており明確な文化単位としては認識されていないが、一部ではいくつかのバンドが自律的に存続している。宗教的には天上神と悪霊を崇拝する体系を持ち祖先儀礼は行わない。

【コイ人】
ボツワナのカラハリ砂漠北部から広まり南西アフリカに広く分布していたと考えられる狩猟採集・遊牧民族。
白人入植者にはホッテントット(蔑称)と呼ばれ、彼ら自身は他民族と区別するためコイコイ(男の中の男)と自称した。外見や言語はサン人に似ているが、サン族とは違い遊牧を行ったため相対的に豊かで富の集積が進み南アフリカ西部やナミビアの一部で支配的な勢力に成長した。
現在では白人入植者との混血が進み、一部を除き賃労働に従事している。宗教的には伝統的呪術信仰よりもキリスト教の影響が強い。

<参考>
ブリタニカ国際大百科事典小項目電子辞書版「コイサン語系諸族」「サン族」「コイ族」